最近のトピック


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アセトゲニンの構造活性相関研究と必須構造因子の同定
Δlac-アセトゲニンの発見と作用機構研究
新規な複合体-I阻害剤としてのピペラジン化合物
光親和性標識法による複合体-I阻害剤の結合部位の解明
カルジオリピン類のライブラリー構築を目指して




アセトゲニン類の構造活性相関研究と必須構造因子の同定

 バンレイシ科植物由来の天然生理活性物質であるアセトゲニン類は、ウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iの最も強力な阻害剤である。当研究室では、アセトゲニン類の構造活性相関研究を進め、阻害活性に必須な構造因子の同定を進めてきた。また、構造活性相関研究に基づき、アセトゲニンの複合体-Iに対する結合モデルを提案した。


[1] Abe, M. et al. (2005) Biochemistry 44, 14898-14906. [PMID: 16274237]
[2] Abe, M.et al. (2008) Biochemistry 47, 6260-6266. [PMID: 18476722]





Δlac-アセトゲニン類の発見と作用機構研究

  アセトゲニン類の構造活性相関研究の過程で、天然アセトゲニン類の共通構造であるγ-ラクトン環を欠損した化合物(Δlac-アセトゲニン)を合成した。意外にも本化合物は、ウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iに対してnMオーダーの強力な阻害活性を保持することが判明した。作用機構研究を進めた結果、阻害に伴う活性酸素の発生量がロテノンやピエリシジンなど既知の複合体-I阻害剤と比べて極端に少ないなど、Δlac-アセトゲニンは天然アセトゲニンだけでなく、既知の複合体-I阻害剤とも異なる作用機構を持つ新規な阻害剤であることが明らかになった。



[1] Ichimaru, N. et al. (2005) Biochemistry 44, 816-825. [PMID: 15641810]
[2] Murai, M.et al. (2006) Biochemistry 45, 9778-9787. [PMID: 16893179]





新規な複合体-I阻害剤、ピペラジン化合物

 ピペラジン構造を母核とする一連のピペラジン型阻害剤を合成した。この化合物は、NADH-ユビキノン酸化還元反応(forward electron transfer)に対してはnMオーダーの強力な阻害活性を示すのに対し、ユビキノール-NAD+酸化還元反応(reverse electron transfer)に対しては遥かに弱い阻害活性しか示さなかった。本化合物はその阻害活性に顕著な異方性を持つユニークな複合体-I阻害剤である。



[1] Ichimaru, N. et al. (2008) Biochemistry 47, 10816-10826. [PMID: 18781777]





光親和性標識法による複合体-I阻害剤の結合部位の解明

 複合体-Iにおける阻害剤結合部位を明らかにすることを目的として、アセトゲニンを鋳型とした光親和性標識プローブ[125I]TDA、およびキナゾリン系阻害剤を鋳型とした[125I]AzQをそれぞれ合成した。ウシ心筋ミトコンドリアに対する光親和性標識実験を実施した結果、[125I]TDAは膜ドメインのND1サブユニットに、[125I]AzQは親水性ドメインの49 kDaと疎水性ドメインのND1サブユニットの境界面に結合することを明らかにした。こうした実験事実は、酵素活性に深く関与する阻害剤の結合部位が、酵素の親水性および疎水性ドメインの境界領域に存在することを示している。



[1] Murai, M.et al. (2007) Biochemistry 46, 6409-6416. [PMID: 17474759]
[2] Murai, M. et al. (2009) Biochemistry 48, 688-698. [PMID: 19128036]
[3] Sekiguchi, K. et al. (2009) Biochim. Biophys. Acta 1787, 1106-1111. [PMID: 19265669]





カルジオリピンのライブラリー構築を目指して

 カルジオリピンの生理的機能の解析に重要なこととして、天然に広汎にみられる不飽和脂肪酸部を持ったカルジオリピン類の効率的な供給が上げられた。また、4つの脂肪酸部についてそれぞれを別個に設計できる合成ルートも必要であった。本研究は、その両方を満たす簡潔な合成ルートの確立を報告するものであり、今後はこのルートを駆使して様々なカルジオリピン類縁体の合成と生理活性評価を行っていく計画である。



[1] Abe, M. et al. (2010) Tetrahedron Lett. 51, 2071-2073.