化合物ギャラリー


当グループでこれまでに合成した化合物の中から、代表的なものを紹介します。
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アセトゲニン Δlac-アセトゲニン
アセトゲニンリガンド

天然・合成ユビキノン ロドキノンと13Cユビキノン
ハイブリッドキノン ユビキノンプローブ

フルアジナム MP-24
Cap-24 キナゾリン

カルジオリピン







 アセトゲニン類はバンレイシ科植物に含まれる天然生理活性物質で、抗腫瘍活性、殺虫活性、殺線虫活性など幅広く強力な生物活性を示す。現在までに約400種類のアセトゲニン類が単離・構造決定されている。天然アセトゲニンのひとつブラタシンは、数多いミトコンドリア複合体-I阻害剤の中でも最強の阻害剤である。我々は天然および合成アセトゲニン類の構造活性相関研究を通して、活性発現に要求される構造因子を世界に先駆けて明らかにしてきた。








 天然アセトゲニンの構造展開の過程で、天然物に共通構造ユニットとして広く認められるγ-ラクトン環を持たない化合物(Δlac-アセトゲニン)を合成した。Δlac-アセトゲニンは、ブラタシンと同等の活性を保持し、しかも天然型アセトゲニンとは全く異なる作用機構を示す新規な阻害剤であることを明らかにした。








  複合体-Iの鍵サブユニットを機能性タグで部位特異的に化学修飾することは、複合体-Iの構造変化を捉える“1分子計測”に道を開くものである。我々は、複合体-Iを化学修飾する方法としてLigand-Directed Tosyl Chemistry(トシル化学) に着目し、これを実行できるアセトゲニンリガンドをデザイン・合成した。アセトゲニンは、複合体-Iの最も強力な阻害剤である。

 トシル化学とは、生理活性化合物(リガンド)の持つ高い結合親和性を利用して、リガンドに組み込んだ合成分子を標的タンパク質へ誘導し、標的タンパク質が有する求核性アミノ酸残基に合成分子(タグ)を求核置換によって固定させるというものである。

 アセトゲニンリガンドにはタグとして末端アセチレンを組み込み、これを足場として、続くクリックケミストリー([3+2]環化付加反応)により蛍光発色団やビオチンなどの2次タグを導入することを意図した。本化合物を用いてウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iの特異的修飾を試みたところ、ユビキノン結合ポケットの最深部を構成する49 kDaサブユニットのAsp160が特異的にアセチレン化されることがわかった。








 天然ユビキノンの構造を示した。疎水性側鎖の長さは生物によって異なり、イソプレノイド単位が6〜10個で構成される。天然ユビキノンは疎水性が極めて高く難溶性のため、呼吸鎖酵素の生化学実験には使えない。そこで、側鎖の短いユビキノン-1(n=1, Q1)やユビキノン-2(n=2, Q2)が一般に用いられる。

 キノン環上の全ての位置の置換基を自由に変換できる汎用性の高い合成方法を確立した。ユビキノン類縁体を用いて種々の呼吸鎖酵素について構造活性相関研究を行い、活性発現に要求される構造因子を酵素ごとに明らかにした。








 回虫(成虫)など嫌気的環境で生活する生物のミトコンドリア呼吸鎖では、ユビキノンに代わってロドキノンが電子の授受を行っている。ロドキノンの効率的な合成方法を確立し、これらの嫌気的呼吸鎖酵素の評価系を確立した。

 また、キノン環のカルボニル炭素を位置選択的に13Cで標識する合成方法を確立した。13C標識ユビキノンを呼吸鎖酵素に結合させた状態で、FT-IRやEPR(電子常磁性共鳴)解析することにより、ユビキノンと呼吸鎖酵素との結合動態をモニターすることが可能となった。








 一定のプローブ機能を付加したユビキノン分子(ユビキノンプローブ)を合成することで、酸化還元酵素におけるユビキノン結合部位や、ユビキノンを利用する新規なタンパク質を見出すことができる。ユビキノンのベンゾキノン環とイソプレン側鎖末端に、それぞれアジド基と末端アセチレンを導入したユビキノンプローブを合成した。本化合物は光親和性標識実験後に、クリックケミストリー([3+2]環化付加反応)を利用してビオチンなどの任意の検出タグを導入することができる。

 本化合物を利用して、Coq10と呼ばれるミトコンドリアタンパク質の光親和性標識実験を行なった。Coq10はコレスレロールなどの疎水性化合物の細胞内輸送に関与するSteroidgenic acute regulatory protein (STAR)-related lipid transfer(START)ドメインスーパーファミリーの一員であり、ミトコンドリア呼吸鎖系における円滑な電子伝達反応をサポートしているのではないかと予想されているが、その役割は依然として不明である。ユビキノンプローブを用いた光親和性標識実験の結果、Coq10がその“疎水性トンネル”内にキノン環部を包合することを初めて明らかにした。








 ユビキノン環とカプサイシンをハイブリッドし、ミトコンドリア呼吸鎖において基質あるいは阻害剤にもなる『ハイブリッドキノン』を合成した。ウシ心筋ミトコンドリア複合体-IIと複合体-IIIでは呼吸基質として、複合体-Iでは強力な阻害剤として機能する。








 フルアジナムは石原産業(株)によって開発された殺菌剤である。この化合物は、ミトコンドリアのマトリックス内に存在する還元型グルタチオンと速やかに反応(求核置換)し、瞬時に失活するというユニークな脱共役剤(アンカップラー)である。これにより、エネルギー変換生体膜の脱共役状態の持続時間を自由に制御することが可能となった。フルアジナムは、選択性に優れた殺菌剤として広く利用されている。








 脳細胞内の代謝産物1-Methyl-4-phenylpyridinium(MPP+)は、その正電荷によって脳のミトコンドリアに高濃度に蓄積し複合体-Iを阻害するため、パーキンソン症候群との因果関係が指摘されている。従来からウシ心筋ミトコンドリア複合体-IにはMPP+の結合部位が2カ所あると示唆されていたが、詳細は不明であった。我々は、MP-24をデザイン合成し、ウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iにはピリジニウム型阻害剤の結合部位が2カ所あることを実証した。MP-24は、2つの結合部位に対して選択性を示す初めての阻害剤である。








 哺乳類ミトコンドリア複合体-Iのモデルとして、構造的により簡単で、遺伝子操作技術が確立している大腸菌などのバクテリアの複合体-Iが広く研究されている。しかし、哺乳類ミトコンドリア複合体-Iを強力に阻害するロテノンやピエリシジンなどは、バクテリア酵素に対しては強力な阻害効果を発揮しないという難点があった。ここに示したCap-24は、カラシの辛み成分カプサイシンから誘導した化合物であり、大腸菌複合体-Iに対して極めて強力な阻害効果を示すため、大腸菌複合体-Iの研究には欠かせない。








 キナゾリン類は哺乳類だけでなく、酵母や線虫の複合体-Iに対しても強力な阻害活性を示す化合物である。6-Amino-4-(4-tert-butylphenethylamino)quinazoline(AQ)はウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iに特異的に結合することにより、その蛍光強度が減少する。この性質を利用することにより、AQの結合状態を定量的に評価することができ、他の阻害剤との競合試験にも応用することができる。


 キナゾリンの光親和性標識プローブ、6-Azido-4-(4-iodophenetylamino)quinazoline (AzQ)を合成し、ミトコンドリア複合体-Iにおける結合領域が49-kDaサブユニットとND1サブユニットの境界領域であることを明らかにした。また、49 kDaおよびND1サブユニットにおけるAzQの結合部位は、N末端領域のAsp41-Arg63領域およびマトリックス第3ループ領域を含むAsp199-Lys262にそれぞれ存在することを明らかにした。複合体-I阻害剤の結合部位をサブユニット以下のレベルで明らかにしたのは本研究が始めてである。








 ミトコンドリア内膜に局在するリン脂質であり、4つの脂肪酸と2つのリン酸部を持ったトリグリセリドである。脂肪酸部の構成比率は生物種によって異なっているが、哺乳類の場合はリノール酸が主である。他の生物種に置いても多くの場合は、不飽和結合を持った直鎖アルキルから構成されている。
 当研究室では脂肪酸部の導入方法を検討した結果、リンール酸を組成とするカルジオリピンの合成を達成している。この方法によれば、各種不飽和脂肪酸を自在に組み込んだカルジオリピンの合成が可能となる。今後は更なるプローブ化を目指した発展研究を計画中である。